研究周りの資料の作り方

毎日資料作りに苦労している管理人のかぬです。
自分向けに作成した資料の作り方についての覚書を公開しておきます。
ここに書いてあることを意識して資料を作れるようになりたいと思っています。
どなたかの参考になれば幸いです。
また、「こんなことに気をつけるといいよ」などのアドバイスをいただけると、飛んで喜びます。

始めに

研究とは、これまでに明らかになっていない事柄を解き明かし、後世まで資料を残す営みのことです。このことから、研究室に配属された学生は資料作成を求められます。研究室配属以前の資料を受け取る立場から、資料を作成する立場に急に切り替わります。研究室に配属当初のかぬと同様に、この立場の切り替わりを意識できていない学生が多いように思います。確かに、この立場の切り替わりを意識することは難しいです。なぜなら、自身が資料の送り手になるという概念を持ち合わせてこなかったからです。この資料を読むことで、研究室配属以降は資料の受け手であると同時に送り手であることを自覚していただけると少しは資料作成をする必要性がわかるのではないかなと思います.

仮に自身が資料の送り手であることを意識できていたとしても、資料作成を要求している教員や先輩が資料に何を求めているのかを把握できないことがほとんどでしょう。これは資料作成の機会に乏しかった学生にとって、資料の必要性と研究の営みの中での資料に求められる役割が理解できていないことに起因しているように思います。

そこで本資料は、資料作成を求められた学生が価値のある資料とは何かを把握し、実際に作成できるようになるためのガイドラインを目指します。まず、資料の役割と目的について述べる中で、資料は資料の受け手に対する説明のために作成されるものであると定義を行います。その後、説明という行為の意味を定義したのち、普遍的に説明可能な資料作成の必要条件は論理構造であることを述べます。論理構造を維持した資料作成を実行するための王道的な手順として、結論とアウトライン構成を事前に作成した上での資料作成について簡潔に述べます。本資料は資料作成の実情に即するため、邪道的な手順ではありますが、アウトラインと結論が事前に存在しない場合の資料作成についても触れます。ここまでのガイドラインを満たせば一定の資料としての価値はありますが、その価値を高めるための方法についても最後に挙げておきます。

資料とは

資料は何かの目的があって初めて作成されるものです。資料の目的は多岐にわたります。研究に限って言えば、論文や発表スライド、日々の実験をまとめたノートやメモも資料にあたります。それぞれの求められる目的は表のようにまとめられます。

資料の種類目的読む対象1つの資料作成にかかる時間資料の価値を維持する期間
論文・専門書根拠に基づいた論述を後世の人に対して残し,読んだ人を説得する形で理解させ,書かれた論文を基点とした新たな論述を可能とする研究内容を知らない人
発表スライド・予稿作成者の生きる現世の人に,根拠に基づいた論述を幅広い人に公表し説得する形で理解してもらうことで新たな議論や論述を可能とする研究内容を知らない人
実験ノート作成者自身が行った実験の内容を正確に記述し,なぜこの実験を行ったかなどの背景まで理解できるようにし,後に再現が必要になった際に過不足なく正確に再現できるようにする未来の自分(〜30年)
進捗報告資料作成者が共同研究者や上司に現在の状況を共有し把握してもらうことで理解させ,適切な助言や議論を行うための前提とする研究室内の内容を知っている相手
メモ一時的に記憶を外在化することで認知負荷をさげ,後にメモを見ることで過去の自分が何を考えていたかを理解し,検討や対応を可能とする未来の自分(〜数日)

ここで注目してほしいのは、どの目的も他者(未来の自分も広義では他者と考えて良い)に対して、資料作成者が考えていることや情報、論述を説明し、理解させることが共通している点です。もし仮に説明や伝えることを目的としない資料が存在するとすれば、その資料は作成自体が目的となっており、作成した時点で資料としての価値を失います。資料作成には時間がかかる作業であるため、すぐに価値を失う資料を作成することに労力をかけるのは時間の無駄です。

このことから,資料は対象とする相手に理解できる形で作成されなければなりません.では,相手に理解させるために取るべき手段とは何でしょうか.それが説明です.

説明するとは

説明するとは「受け手が知らない情報や考えを理解させる」ために実施される行為です。よって、受け手が理解できない情報や考えを投げつける行為は説明ではありません。つまり、受け手の理解が最優先であり、資料は受け手の理解形成が容易な方法で記述されなければなりません。本資料での理解とは情報を構造化し、その構造を他者に説明可能な状態のことを指します。以降、情報が構造化したものを情報構造と呼ぶこととします。本資料では構造化されていない情報も「構造がない情報構造である」として捉えることとします。

受け手の理解形成は「すでに受け手が持っている情報構造」へ「送り手による新たな情報構造」が組み合わさることにより、「送り手の情報構造を受け手が再現できる状態」へと遷移することで形成されます。このことから、受け手の持っている背景情報により、送り手が行うべき資料作成の方針は異なることを意味します。例えば、数日後の自分へ向けたメモでは、背景として持っている情報構造が送り手である資料作成時の自分と大きく変わらないことが期待され、資料として記述される情報構造が多義性や曖昧性を残していても説明可能な資料となります。

一方、受け手に依存せず説明可能な資料作成が求められる状況があります。それが論文や学会発表などの『受け手の背景が不特定多数』に対して公表する資料です。不特定多数へ向けた資料作成では、受け手が持っている情報を仮定することが難しいです。よって、論文や発表資料では「送り手による新たな情報構造」のみで「送り手の情報構造を受け手が再現できる状態」へ一意に遷移可能な資料を作成しなければなりません。この一意性を満たす情報構造を形成するのが論理に沿った構造です。論理とは思考の形式や法則をさし、思考の法則的なつながりを意味します(広辞苑より改変)。以降では論理に沿った情報構造を論理構造と呼称します。この時、論理構造は曖昧性や多義性を許さないものとして定義されます。よって、受け手に依存せず説明可能な資料とは論理構造を持つ記述がされなければなりません。

論理構造とは根拠(実験事実や論理的帰結、公理)によって結論が支えられる構造と言われますが、これは何も結論を支えるための構造だけと考えないほうが良いでしょう。ここで説明として求められる論理構造は、ある根拠を示す記述Aに基づき論理的に導かれた新たな記述Bが得られ、得られた記述Bから記述Cが得られ…という連鎖的な記述のつながりを生む構造です。もちろん、記述から記述への連鎖1つ1つが必ず根拠を持った論理的記述である必要があります。

論理構造をなす記述の連鎖群で構成された資料であっても、その根拠となる部分や論述に反例がないかを受け手が検討することは自然です。よって、送り手は受け手の検討項目を減らし、資料に対する理解を促すためには、根拠の根拠たる所以を論述し、考えられる反例を複数の側面から上げてそれを棄却することが求められます。根拠となるのは、それ以外の可能性がない論理的帰結であることから、論理的帰結を記述することによって、根拠や論述が確かであることを受け手に示すことが資料では求められます。すなわち、資料を用いて説明するとは、結論に向けての検証過程を提示し、それらが論理によってつながる確かなものであることを示すことによってのみ成立すると考えるべきです。

また、記述を構成する用語は受け手の情報構造に依存しないよう、資料内において用語ごとに自己定義性・自己完結性を持った定義されなければなりません。文章内で未定義の用語を用いた際、その用語は受け手の持つ情報構造内での定義が用いられるため、受け手の情報構造に依存した理解がなされます。また、用語定義において自己言及性(トートロジー)を用いてはなりません。自己言及とは『言語表現が自分自身を言及する対象とすること(広辞苑より引用)』です。自己言及性のある用語定義並びに文は証明不可能なパラドックスなどを生むため、論理構造が破綻することから排除しなければなりません。

このようにして作成された一連の記述群は必ず全体としての論理構造を維持し、記述群の最後に記述される結論へ一意にたどり着きます。

資料を実際に作成するには?

資料作成法(王道)

論理構造を持つ資料を実際に作成するためには、1つの結論へ向けて全ての文章が連なっていることが必要です。このためには、資料作成前に「資料で理解させる結論」を記述しておくことが重要です。こうしておくことによって、「今の記述はその結論に向かっているか」を常にセルフチェックすることができ、記述の連鎖群として資料を作成することができます。

また、資料作成の場合に同時に大切なのは、「どの道筋で記述の連鎖群を作り、相手の理解を促すか」という戦略作りです。結論に行き着く記述の連鎖群は通常複数あります。その中からどの連鎖群を用いた論理構造として記述をするかを事前に設定しておくことで、受け手の理解を促す資料を意識しながら作成することができます。これを実施するためには、アウトラインを事前に作成し、大筋の論理構造を事前に検討しておくことが有効です。アウトラインとは『大略、大要、骨子、あらまし(広辞苑より引用)』を意味しますが、資料作成におけるアウトラインとは最低限踏むべき記述順序が守られており、アウトラインの各項目は資料の骨子となる主題とするべきです。例えば、本の目次はどの順番で説明をし結論へ促すかを端的に記述したものであり、アウトラインの代表格です。本の目次を入れ替えてしまった場合には記述の連鎖群が壊れ、受け手の理解が困難となることからも、アウトラインの重要性がわかります。(余談ですが、これを理解してから目次を正確に読解すると本の内容の概要が掴めるようになりました。)また、文書資料の場合にはアウトラインの各項目と段落や章を対応づけ、対応箇所にアウトラインの項目から外れた内容が記載されていないかのチェックをすると論理構造が把握しやすい資料となります。

結論への道筋を見失わずに書く方法として結論から冒頭へと遡っていく書き方が挙げられます。先に結論とする記述が決まっているならば、その記述に直接繋がる記述を直前に置き、その記述につながる記述を…とすることで結論から外れることなく記述の連鎖群を記述することができます。この場合、冒頭に遡って書き終えたのち、冒頭から読み直して連鎖が途切れていないかをチェックすると同時に、概念や用語定義が事前になされているかのチェックをするべきです。

資料作成法(邪道)

資料作成の際には、断片的な記述が複数ある場合や、結論となる記述を明確化しきれない場合、資料作成中に結論となる記述が変化する場合も存在します。書きながら考えるというのは、比喩的な表現ではなく、執筆という作業の実態です。このような場合にはどのように執筆するべきでしょうか。邪道ではありますが、それぞれの場合について、王道から外れた資料作成法をとった際にも資料としての完成度を下げない方法を私なりに提案します。

断片的な記述がある場合には、それら断片的な記述を整理するところから開始するのが良いように思います。断片的な記述の中でグループ化していき、どの記述を最後の結論とするべきかを判断し、そこへ向かう順番に並べてみるのが最初に行うべきでしょう。このとき、経験則的には結論にすると決めた記述に直接関係ない断片的な記述は潔く削除する(もしくは別の場所に保存する)のが資料作成をする上で良いです。この提案は、書いた断片が勿体無いからと全ての断片を押し込めるように結論をいじり回しても時間ばかりかかり、良い資料とならなかったという実体験から来ています。

結論となる記述が明確化しきれない場合には、とにかく手を動かして断片でもいいから書いてみることをおすすめします。次に述べることですが、結論としている記述は書いているうちに次々に形を変えていくことは往々にしてあります。このことから、結論とするべき記述が決まらないからと資料作成の手が止まってしまうなら、次々に記述を書き出してみて、断片的な記述がある場合に持っていくのが良いでしょう。経験則的ですが、資料作成の手が止まっている時間は考えているようで何も考えず、同じことをぐるぐると繰り返し悩んでいる状況であることが多いです。よって、その状況から脱却するためにも、とにかく書くことをおすすめします。また、相談相手(共同研究者やメンター、同期など)がいるならば、その人たちにどんなことを資料にしようと考えているのかをまとまっていないうちから相談してみるのも一つの手です。ただし相談をする場合には、相談相手の資料作成方針にただ従ってしまう場合や、十分に価値が説明できないがゆえに資料を作成しなくても良いのではないかという指摘をされる場合があるので十分に注意しなければなりません。相談をする場合にも自分の判断で最終的に資料をどの方向にするのかを決める意識を持つべきです。

資料作成中に結論となる記述が変化する場合には、その変化後の結論となる記述を他の場所に書いておき、今の作成方針のまま一度資料を最後まで作成し終えてから、変化後の結論となる記述と照らし合わせ、どこを修正するのが良いかを検討することをおすすめします。作成中の結論とする記述の変化は多々生じますが、1つの方針で記述を完成させずに変化後の結論記述に向けて作成しなおした場合、もう一度同じように途中で結論とする記述変化が生じることが多いです。そこで、一度全体像を見渡すためにも最初に立てた結論となる記述に向けて資料の全体像を把握し、そこに対して変化後の結論とどこに齟齬が生じているのかを検討するのが良いです。このとき変化後の結論とする記述と変化前の結論とする記述であまりにも違いがあるようであれば、最初から作成し直した方が全体的な時間が短い場合が頻発するので、作成した資料への執着を強く持ちすぎないことをお勧めします。最初から作成し直す場合でも、一度全体像を見渡してから作成した資料は最初に資料を作成した際よりも圧倒的に短く済むことが多いので安心してください。

このように資料作成法の王道から外れてしまった際の資料作成では、資料全体が論理的構造を持った記述の連鎖群をなしているかを特に注意深くチェックするべきです。記述の連鎖群をつなぎ合わせたり方向転換をしたりしながらの資料作成は連鎖の途切れや結論となる記述のブレ、回りくどい論理構造などを引き起こしやすいからです。

資料としての価値を高めるには?(資料作成のテクニック?)

一意の結論へと辿り着く論理構造を持った資料は受け手に理解を促します。しかし、ただ連鎖的な記述の鎖では、受け手が送り手が何を伝えたいのかを知らないため、記述群全体を受け取る際にどこに注力して読むべきかがわからず、また受け取った資料を読むべきかの判断ができません。大量な資料がある中で、受け取った価値のある資料かどうかを受け手に判断しやすくするためにも、作成した資料が何を目的とし、送り手が何を伝えたいのかを冒頭に端的に記述することが求められます。実際、論理構造によって支えられる論文には必ず論文全体を要約するアブストラクトや序章が設けられます。このようにして、受け手が資料に対してどのような話を期待して読むのかを誘導し、理解を促進するように努めるのも資料作成者の務めです。また、長い資料では、全体の記述群において今読んでいる記述がどこに位置するのかを定期的に提示することも有効であると考えられます。

理解を容易にするためには、論理構造や用語選択にも戦略が存在します。論理的な繋がりが回りくどくならないよう、少ない記述群で構成されるように論理構造を整理することや、内容の似た記述をできるだけ近くに記述すること、対比・順接・逆説・並立・転換・補足などの接続関係をわかりやすくなるよう接続詞や助詞を工夫することなどが挙げられます。用語選択にはその用語の持つ意味を正確に理解し、適切な用語を用いることで受け手の理解への障害を小さくすることができます。また、受け手が論理構造の誤対応を引き起こさないよう、資料内で複数の意味で使われないよう注意する必要があります。どうしても同じ意味の用語を複数箇所で使いたい場合には、類語辞典で検索しそれぞれに適切な用語を選択する、もしくは適切な修飾をつけて用いるなどの工夫が必要です。

1つ1つの文の書き方にも工夫があります。受け手が初めて読んだ文から本質的な点を取り出し、その後の論理構造の中で記憶し続けるのは困難を極めます。詳細に説明した文をあえて端的に短く記述し直すことで強いメッセージとして受け手が受け止め、その後の論理構造の中で記述された際に記憶から取り出しやすくすることで受け手の理解への障害を小さくする工夫を行うべきです。

ここまで述べたのは主に言語記述ですが、図を利用することも資料としての価値を高める上で重要な要素です。図は用語定義や概念をわかりやすく記述するために用いられます。図での記述が効果的なものとして空間配置に関する記述や構造の説明、定量的比較が挙げられます。実験結果をグラフで記述するのは定量的比較を効果的に記述するためです。図の利用方法として、一度詳細に説明した図を複数箇所で利用することでアイコン化の効果を狙い、指示語の代わりに図を用いることで一意に受け手に記述の対象を指し示すことも可能です。近年では、装置やモデルなどの構造を持つ題材を扱う雑誌や学会によってはグラフィカルアブストラクトを求める場合も存在し、図による記述の有用性を裏付けています。

まとめ

本資料では、価値のある資料とは「送り手の情報構造を受け手が再現できる状態」へと一意に遷移可能な「送り手による新たな情報構造」を記述したものであると定義しました。普遍的な価値のある資料作成条件について論じるために、資料作成が最も困難な、「受け手に依存しない資料作成条件」について考察しました。その考察から、普遍的に価値のある資料作成のためには、資料は論理構造を持つ記述の連鎖群で構成されなければならないことを示しました。実際に論理構造を持つ資料を作成するため、王道と邪道の2つの資料作成手順について触れ、資料の価値を高めるためのテクニックについて記載しました。

本資料で述べた資料の作成ガイドラインは研究における資料を念頭に置いたものです。しかし、本資料で述べたガイドラインは研究以外での資料作成一般にも適用可能だと考えています。ぜひ他の状況での資料作成にも適用し、差異が生じた際にはフィードバックをいただけると幸いです。

それでは。

コメント

タイトルとURLをコピーしました